スマートフォンの加速度センサから自動運転車の慣性センサ、医療用バイオデバイスに至るまで、MEMSデバイスは現代社会のインフラを支えています。一方で、MEMS製造プロセスにはメモリ・ロジック半導体製造とは異なる特有の技術課題が多く、プロセス設計や装置選定の判断は容易ではありません。本記事では、シリコン微細加工の基本フローを軸に、MEMSデバイスの製造プロセス全体像と業界が直面する技術課題、そして量産化に向けた要点を整理してお伝えします。
MEMSデバイスとシリコン微細加工: 市場と技術の重要性
MEMS(Micro-Electro-Mechanical Systems:微小電気機械システム)は、シリコン微細加工技術を駆使して、センサ、アクチュエータ、電子回路を単一のシリコン基板上に高密度に集積する技術です。スマートフォンやヘッドホンに搭載される超小型マイクから、産業用アンテナを安定化させる高精度な慣性センサ、自動運転を支える自動車用センサ、ゲームコンソール、ドローン、ナビゲーション支援システムまで、多岐にわたる用途で活用されています(出典:Edge AI and Vision Alliance)。
世界のMEMS市場は、新型コロナウイルス感染症パンデミック後の在庫調整期を経て、現在「ポスト在庫成長時代」へと移行しています。2024年のグローバルMEMS市場収益は154億米ドルに達し、前年比5%の安定成長を記録。2030年には市場収益192億米ドルへの拡大が予測され、2024〜2030年の年平均成長率(CAGR)は3.7%と見込まれています(出典:Yole Group『Status of the MEMS Industry 2025』)。
近年はIoTの成熟に伴う「小型化・エネルギー効率向上・低コスト化」要求が高まる一方で、BioMEMSや圧電MEMSといった次世代領域の急成長も観測されています。
MEMS製造プロセスフローの中核:シリコン深掘りエッチング
MEMSデバイス製造のフローにおいて、最も技術的難易度が高い工程が「シリコン深掘りエッチング(DRIE:Deep Reactive Ion Etching、DSiE:Deep Silicon Etching、Si DRIE:Silicon Deep Reactive Ion Etchingとも表記)」です。シリコン基板に高アスペクト比(深さと幅の比率が大きい)の微細構造を形成する工程で、業界では主に2つの異なる技術アプローチが採用されています。
1. ボッシュプロセス:MEMS製造のデファクトスタンダード
ドイツのRobert Bosch GmbHによって開発された「ボッシュプロセス」は、MEMS製造における事実上の業界標準となっています。六フッ化硫黄(SF6)などのフッ素系ガスによる等方性エッチングステップと、オクタフルオロシクロブタン(C4F8)などのフルオロカーボン系プラズマによる側壁保護膜(パッシベーション)形成ステップを、数秒〜数十ミリ秒単位で高速に繰り返すことで、シリコンを垂直に深く掘り進めます。
主な特徴は次のとおりです。
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フォトレジストや酸化膜マスクに対する高い選択比と高エッチングレートの両立
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貫通電極(TSV)やマイクロ流路など、深い構造の形成に適合
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側壁に「スキャロップ」と呼ばれる波打ち状の凹凸が形成される
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高密度プラズマを生成する誘導結合プラズマ(ICP:Inductively Coupled Plasma)装置が必須
2. 極低温プロセス(Cryo-DSiE):滑らかな側壁形成
極低温プロセスは、ウェハを-100℃〜-120℃程度まで冷却して反応を制御する方式です。ボッシュプロセスのようにポリマー系の保護膜を堆積させないため、スキャロップが発生せず、極めて滑らかな側壁を形成できます。ナノスケールの微細構造形成や微細パターン転写用の母型(マイクロモールド)作製に適しており、低温・低バイアス電圧処理であることから、マスク材料の消費率を低減できる利点も持っています。
MEMS製造プロセスが直面する技術的課題
1. マイクロローディング効果(ARDE)
2. スティクションと犠牲層エッチング
加速度センサやマイクロフォンなどの可動構造を基板から解放する「リリース工程」では、犠牲層(主に酸化シリコン層)の除去にフッ化水素酸(HF酸)水溶液を用いるウェットエッチングが伝統的に使われてきました。しかし、リンス・乾燥時の液体表面張力により可動構造同士が固着する「スティクション(凝着)」が発生し、歩留まりを激減させる致命的な問題が顕在化しています。
この課題への対応として、水溶液を一切使用しない気相(ドライ)プロセスへの注目が高まっています。
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無水HFベーパーエッチング(Vapor HF):低圧環境下でごく微量の水分のみを触媒として反応させ、完全なスティクションフリーの構造解放を実現
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二フッ化キセノン(XeF2)エッチング:パッケージング材料やダイシングフレームへのダメージを与えずシリコンを選択的にエッチング可能で、リリース工程をダイシング後やワイヤーボンディング工程まで遅延させ歩留まり向上に寄与
3. SOIウェハのノッチング
加速度センサ等で標準的に用いられるSOI(Silicon on Insulator)ウェハの深掘り工程では、エッチングがBOX層(埋め込み酸化層)に到達した際、絶縁層に蓄積したイオンの反発力で側壁下部が横方向にえぐられる「ノッチ」が発生します。MEMS構造体の機械的強度や共振特性を著しく損なうため、界面到達時の精密制御が要求されます。
研究試作から量産化へ:プロセスインテグレーションの重要性
MEMS製造の真価は、研究試作で確立したプロセスをそのまま量産(HVM:High-Volume Manufacturing)ラインに移行できるかで決まります。本記事で取り上げた課題を踏まえると、量産化に向けて特に重要となるのが次の3点です。
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ノッチレスSOI加工:オーバーエッチング条件下でもBOX層界面でノッチを発生させない高精度制御
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ドライ犠牲層エッチング:水溶液を排除しスティクションを完全に回避するリリース工程
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マルチチャンバプラットフォーム:ウェハを大気曝露せず連続処理[和米2.1]し、フットプリントあたりの生産性を最大化
SPPテクノロジーズは、MEMS向けシリコン深掘り装置で日本国内シェア90%を有し、ボッシュプロセスをRobert Bosch GmbHと共同開発したSTS(現KLA - SPTS)を1995年に買収し、世界初のボッシュプロセス互換シリコン深掘りエッチング装置を出荷して以来、MEMSシリコン深掘り領域のデファクトスタンダードとしての地位を確立しています。ドライ犠牲層エッチング装置Vetelgeuseによるスティクションフリーのリリース工程など、量産歩留まりに直結する技術ソリューションを提供しています。
まとめ
本記事の要点を整理します。
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MEMSデバイスの製造プロセスはシリコン微細加工が中核であり、DRIEが最も難易度の高い工程となる
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主要なエッチング技術は「ボッシュプロセス」と「極低温プロセス」の2系統で、用途に応じて使い分けられる
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業界の技術課題は、ARDE、スティクション、SOIノッチングの3領域に集約される
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量産化には、エッチング性能のみならずドライリリースやマルチチャンバ化を含む統合的なプロセス設計が不可欠
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MEMSデバイスの量産プロセス設計、シリコン深掘りエッチング装置の選定、犠牲層リリースの最適化、SOIウェハ加工の歩留まり改善など、具体的な技術課題への支援をご希望の場合は、SPPテクノロジーズまでお気軽にお問い合わせください。日本国内シェア90%の実績で培った知見をもとに、研究試作から量産までを一貫してサポートいたします。
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