GaN HEMTの量産化において、プラズマエッチング工程で生じる表面ダメージは、歩留まりとデバイス特性を直接左右する要因です。窒化ガリウム(GaN)は化学的に安定なため加工にイオンの物理的衝撃を伴い、その結果として表面直下(サブサーフェス)に生じるごくわずかな損傷層が、リーク電流の増大や動的オン抵抗の悪化として顕在化します。本記事は「なぜダメージが生じ、何が特性を劣化させ、どこを制御すれば抑えられるのか」という原理の理解を求める技術者に向けて、情報収集型の検索意図に正面から応える構成としています。
GaN HEMTとは? 2DEGという「傷つきやすいチャネル」
GaN HEMTの構造と動作原理
GaN HEMT(High Electron Mobility Transistor:高電子移動度トランジスタ)は、AlGaN層とGaN層のヘテロ接合界面に生じる二次元電子ガス(2DEG)をチャネルとして利用するデバイスです。電子が高速に走行できるこの界面が、GaN HEMTの高周波特性と低損失性能を支えています。
材料としてのGaNは、シリコン(Si)のバンドギャップが1.1 eVであるのに対して3.4 eVというワイドバンドギャップを有し、絶縁破壊電界強度が極めて高く、電子移動度にも優れています。この物性がスイッチング損失・導通損失の低減につながり、AIサーバー向けデータセンター、EV、5G/6G通信、急速充電器といった用途を牽引しています。
市場面では、パワーGaNデバイス市場は2024年の3億5,500万ドルから2030年には約30億ドルへ、年平均成長率(CAGR)42%で拡大すると予測されています(出典:Semiconductor Today)。市場拡大は、そのまま量産歩留まりへの要求水準の上昇を意味します。
なぜ窒化ガリウムは加工が難しいのか
GaNは化学的に極めて安定しており、原子間結合が強固です。そのため通常のプラズマエッチングでは、塩素系ガス(Cl2やBCl3)による化学反応だけでは加工が進まず、プラズマ中のイオンを基板に衝突させる物理的衝撃(イオンボンバードメント)に依存して加工を進行させることになります。
ここに、GaN加工の構造的なジレンマがあります。加工を進める駆動力そのものが、ダメージの発生源でもあるという点です。加工速度と低ダメージ性は、単純なトレードオフとして立ち現れます。
プラズマエッチングの原理とGaN加工におけるジレンマ
プラズマエッチングの種類とイオンエネルギーの位置づけ
プラズマエッチングは、大別すると反応性ガスによる化学的作用と、イオンの入射による物理的作用の組み合わせで成立します。ICP-RIEに代表される高密度プラズマ方式では、プラズマ生成と基板へのイオン引き込み(バイアス)を独立に制御できるため、GaNのような難加工材料でも実用的なエッチングレートを得られます。
実務上重要なのは、このバイアスパワー(イオンエネルギー)が、加工結果と電気特性の双方を同時に決めてしまうという点です。一般に「エッチングレートを上げたければバイアスを上げる」とされますが、GaN HEMTにおいては、上げた分だけデバイス特性の劣化リスクを引き受けることになります。同じ寸法・同じ深さに加工できていても、電気的には別物になり得るのです。
表面ダメージはどのようにHEMT特性を劣化させるか
結晶構造の破壊と窒素空孔の生成
イオンボンバードメントによる物理的衝撃は、GaN表面およびサブサーフェス(表面直下)の結晶構造を破壊し、窒素抜け(窒素空孔)や格子欠陥を誘発します。ここで注意すべきは、この損傷が光学顕微鏡やSEMの断面観察では見えないスケールで進行する**という点です。形状が設計どおりでも、電気的評価の段階で初めて問題が判明する——というのが、この工程における典型的な失敗の形です。
リーク電流の増大(ショットキー障壁高さの低下)
実証データによれば、バイアスパワー(イオンエネルギー)の増加に従ってGaNショットキー電極の障壁高さ(ΦB)が減少し、リーク電流の増大を引き起こすことが確認されています。なお、この報告は縦型のトレンチゲートMOSFETを対象とした研究であり、ショットキーバリアダイオードの評価もトレンチ構造検証の一環として実施されたものです。横型の2DEGチャネルを持つGaN HEMTへ数値をそのまま一般化する際には、デバイス構造の違いに留意する必要があります。
これは、ダメージが「あるかないか」の二値ではなく、イオンエネルギーの大小に応じて連続的に電気特性へ効いてくることを示唆します。低ダメージ加工とは、ダメージをゼロにする話ではなく、デバイス特性を損なわない閾値の内側に収める制御の話である、と捉えるのが実務的です。
2DEGの劣化と動的オン抵抗・カレントコラプス
エッチングダメージは2DEGのシート抵抗(Rsheet)を急激に上昇させ、高周波動作における動的オン抵抗の悪化やカレントコラプス現象(電流低下)といった致命的な性能劣化を引き起こします(出典:Kozak, J. P. 他「Stability, Reliability, and Robustness of GaN Power Devices: A Review」IEEE Transactions on Power Electronics, 2023, Vol.38, No.7, pp.8442-8471)。
つまり表面ダメージの影響は、静特性の劣化にとどまりません。スイッチング動作という、GaNデバイスが本来最も価値を発揮する領域で顕在化します。静特性の初期評価だけで工程条件を確定させた場合、量産後に動的特性のばらつきとして跳ね返る可能性がある点には留意が必要です。
なお、GaNパワーデバイスの動的特性評価や信頼性試験手法については、JEDECのJC-70委員会で標準化が推進されています(出典:Kozak, J. P. 他「Stability, Reliability, and Robustness of GaN Power Devices: A Review」IEEE Transactions on Power Electronics, 2023, Vol.38, No.7, pp.8442-8471)。評価軸が標準化に向かうほど、工程側で説明可能なダメージ制御が求められることになります。
GaN HEMTのノーマリーオフ(E-mode)構造が要求する加工精度
パワーエレクトロニクス用途では、フェイルセーフの観点から、ゲート電圧がゼロのときに電流が流れないノーマリーオフ動作(エンハンスメントモード:E-mode)が必須要件となります。これを実現する代表的な構造として、p-GaNゲート構造や、AlGaNバリア層を極薄く残すリセスゲート構造があります。
この工程では、下地の活性層にダメージを与えずにp-GaNキャップ層を完全に除去するか、あるいは薄いAlGaN層をエッチングして目標膜厚だけを正確に残すという、極めて厳格な選択性と均一性が要求されます。従来の連続的なプラズマエッチングでは、深さ方向の制御性と面内均一性をナノスケールで担保することが技術的に困難とされてきました(出典:Plasma atomic layer etching of GaN/AlGaN materials and application: An overview)。
残す膜が薄いほど、同じ絶対量のダメージ層が占める比率は相対的に大きくなります。E-mode構造において低ダメージ加工が単なる品質向上策ではなく、構造成立の前提条件となるのはこのためです。
低ダメージ加工の二つのアプローチ
現在、業界における低ダメージ化の方向性は、大きく二つに整理できます。
アプローチ①:サイクル型プロセス(原子層エッチング)
原子層エッチング(ALE:Atomic Layer Etching)は、プロセスを「表面改質」と「除去」の2ステップに時間的に分離する手法です。塩素系ガスでGaN表面を改質し、残留ガスをパージした後、低エネルギーのアルゴン等の希ガスプラズマで改質層のみを物理的に除去します(出典:Plasma atomic layer etching of GaN/AlGaN materials and application: An overview)。
この自己律速(Self-limiting)的な反応機構により、イオンエネルギーを低く抑えた原子層レベルでの深さ制御が可能になります。ただし、1サイクルあたりのエッチング量(EPC:Etch Per Cycle)はガス系やプロセス条件によって大きく異なり、0.15〜1.85 nm/cycleと幅広く報告されている点には注意が必要です(出典:Journal of Semiconductors 43(11), 113101 (2022))。たとえばBCl3/Ar系を用いてAlGaN上のGaN層を選択的に除去した実験では、135サイクルで除去が完了したことから1サイクルあたり0.74 nmと推定されています(出典:Tang & Liu「Removal of GaN film over AlGaN with inductively coupled BCl3/Ar atomic layer etch」Chinese Physics B 31, 018101 (2022))。この値は特定の実験系における推定値であり、ALE全般の代表値ではありません。
一方で、この方式には構造的な制約が伴います。数十nmのエッチングに数百サイクルを要するため、従来のエッチングと比較してエッチングレートが著しく低く、量産ラインにおけるスループット確保(Cost of Ownershipの最適化)が新たな課題となっています(出典:Atomic layer etching of GaN using Cl2 and He or Ar plasma)。
アプローチ②:連続型プロセスにおける低イオンエネルギー制御
もう一つの方向性が、連続的なRIEプロセスを維持したまま、イオンエネルギーそのものを制御可能な下限まで引き下げるアプローチです。
前述のとおり、ダメージはバイアスパワーに応じて連続的に増減します。裏を返せば、低RFパワー領域で出力を精度良く制御できれば、サイクル型プロセスに頼らずとも、デバイス特性を損なわない閾値での加工が成立し得るということです。SPPテクノロジーズのRIEプラットフォームは、低RFパワー領域でも精度良く出力を制御できる専用RF電源を搭載しており、連続的なRIEプロセスにおける物理的ダメージの低減を実現しています。
もっとも、この方式が万能というわけではありません。要求される残膜精度や材料系によっては、サイクル型の自己律速性が優位となる場面もあります。実務的には、加工対象の層構造と要求スループットを踏まえて、どちらの制御方式が適合するかを工程ごとに切り分ける判断が現実的です。
低ダメージ加工を支える装置側の要件
プラズマエッチング装置の構造や制御系は、ダメージ制御の成否に直結します。GaN HEMTの量産を前提とした場合、少なくとも以下の観点が検討対象となります。
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低RFパワー領域での出力制御精度:バイアスパワーを下げること自体は容易でも、低出力域で安定した再現性を保つことは別問題です。プロセスウィンドウの下限は、装置の電源制御性能によって規定されます。
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F系・Cl系ガスの両対応:実際のデバイス製造フローでは、GaNやAlGaNの加工(Cl系主体)だけでなく、パッシベーション層や層間絶縁膜(SiN、SiO2)のエッチング(F系主体)も必須となります。デバイス全体の歩留まりは、活性層の加工品質だけでは決まりません。
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R&Dから量産へのスケーラビリティ:研究開発段階で確立した低ダメージレシピを、ハードウェアの基本構造を変えずに量産ラインへ移管できるかどうかが、市場投入リードタイムを左右します。SPPテクノロジーズでは、研究開発向けの単一モジュール構成から、真空搬送ロボットを統合したマルチチャンバーの量産構成まで、段階的なプラットフォームを提供しています。
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200mmウェーハ対応:製造コスト低減と歩留まり向上を目的として、6インチから8インチ(200mm)への大口径化に向けた設備投資が活発化しています(出典:Semiconductor Today)。大口径化は面内均一性の要求水準も同時に引き上げます。
まとめ
GaN HEMTのドライエッチングにおける論点を整理します。
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GaNは化学的に安定なため、加工がイオンボンバードメントに依存する。加工の駆動力そのものがダメージ源となる。
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表面ダメージは窒素空孔・格子欠陥を生み、ショットキー障壁高さの低下によるリーク電流増大、2DEGのシート抵抗上昇による動的オン抵抗の悪化やカレントコラプスとして顕在化する。
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ダメージはバイアスパワーに応じて連続的に増減するため、低ダメージ加工とは「ゼロにする」ことではなく「特性を損なわない閾値内に制御する」ことである。
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ノーマリーオフ(E-mode)構造では、残す膜が薄いほどダメージ層の相対的影響が増すため、低ダメージ加工が構造成立の前提条件となる。
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低ダメージ化には、サイクル型プロセスによる自己律速制御と、連続型プロセスにおける低イオンエネルギー制御という二つの方向性があり、要求精度とスループットに応じた選択が求められる。
GaNプロセスのダメージ制御でお困りの方へ
SPPテクノロジーズは、30年以上にわたるシリコン深掘りエッチング(Si DRIE)の技術的知見を背景に、化合物半導体向けのプラズマエッチング装置を開発・提供しています。F系・Cl系双方のガスに対応し、低RFパワー領域での精密制御により、GaN活性層の低ダメージ加工から絶縁膜・難加工材料の処理までを一貫してサポートします。
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