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アルミ配線を含むMEMS構造の犠牲層エッチングで注意すべき点

アルミ配線を含むMEMS構造の犠牲層エッチングで注意すべき点

MEMSの犠牲層エッチングでは、アルミ配線(Al配線)を含む構造ほど注意すべき点が増えます。CMOS回路と一体化したMEMSでは表面にAlが露出していることが多く、犠牲層を除去する薬液やガスがAlを腐食させるおそれがあるためです。本記事では、Al配線を損なわずに犠牲層を除去するためのポイントを、エッチング方式の違い、反応で生じる水分、犠牲層の膜質、保護膜の選び方、信頼性評価の観点から整理します。

MEMSの犠牲層エッチングでアルミ配線が問題になる理由

犠牲層エッチングとは

表面マイクロマシニングで製造するMEMSでは、構造層の下や周囲に酸化シリコン(SiO2)などの「犠牲層」を一時的に配置し、最終段階でこれを選択的に除去します。これにより、カンチレバー(片持ち梁)やメンブレン(薄膜)といった可動構造が空間に解放(リリース)されます。この犠牲層エッチングは、MEMSの表面加工における中核的な工程とされています(出典:International Core Journal of Engineering「MEMS Sacrificial Layer Release Technology」)。

CMOS-MEMSではAl配線が露出している

近年は、MEMSとCMOS回路をひとつのチップに集積する「CMOS-MEMS」が進んでいます。CMOSの標準的な配線材料はアルミニウムです。そのため、デバイス表面にAlが露出した状態で犠牲層エッチングを行うケースが多くなっています(出典:Idonus「Etch stop materials for release by vapor HF etching」)。

求められるのは、「犠牲層だけを除去し、Alには影響を与えない」という高い選択性です。どの対策を優先すべきかは、Alパッドや配線の露出の程度、他の金属との接触の有無といった構造条件によって変わります。

車載用途では、わずかなダメージも信頼性に影響する

世界のMEMS市場は2025年に171億ドルとなり、2031年には240億ドルに達すると予測されています。自動車分野では、EV化とADAS(先進運転支援システム)の高度化に伴い、IMU(慣性計測装置)や圧力センサの搭載数が増えています(出典:Yole Group「Status of the MEMS Industry 2026」)。

車載用デバイスには、AEC-Q100をはじめとする信頼性規格への準拠が求められます(出典:OKIエンジニアリング「AEC-Q100試験」)。犠牲層エッチングで生じたわずかな腐食が、後の信頼性試験で不良として顕在化する可能性がある点にも留意が必要です。

本記事で重視する2つの条件

以上を踏まえ、本記事では次の2つの条件を同時に満たすことを軸に注意点を整理します。

  • Al配線に腐食や膜厚の減少といったダメージを与えないこと
  • 構造体を基板から確実に解放すること

ドライエッチングとウェットエッチングの違い:Al配線を守れるか

一般に「ドライエッチング」はプラズマを用いた加工を指すことが多い言葉です。一方、犠牲層エッチングの文脈では、液体を使わない気相エッチング(無水HF蒸気など)を指す場合があります。本記事でも、この意味で「ドライ」を使います。

ウェットエッチング:フッ酸水溶液はAlそのものを溶かす

SiO2犠牲層の除去には、従来フッ化水素酸(HF)水溶液を用いるウェットエッチングが広く使われてきました(出典:Google Patents「US20090308843A1」)。しかし、AlはHF水溶液に弱く、5:1の希フッ酸中ではおよそ11 nm/minの速度で等方的にエッチングされるとされています(出典:memsstar「HF Acid Etch vs HF Vapor Etch」、https://memsstar.com/hf-acid-etch-vs-hf-vapour-etch/)。

エッチング時間が長くなる構造や条件ほど、Alが薬液にさらされる時間も長くなります。配線の膜減りや断線のリスクを、エッチング時間とあわせて見積もることが重要です。

見落とされやすいガルバニック腐食

ウェットプロセスでさらに注意したいのが、ガルバニック腐食(異種金属接触腐食)です。Alが金、クロム、チタンなどの金属と電気的に接触した状態で電解質に触れると、両金属の電位差によって局所的な電池(ガルバニックセル)が形成されます。このとき電位の低いAlがアノード(溶け出す側)となり、溶解が進みます(出典:日本バレル工業「電食(異種金属接触腐食)」)。

MEMS向けの多層金属膜を用いた実験でも、異種金属と接したAl膜では、Al単膜に比べてエッチングが加速することが報告されています。加速の程度は、金属の組み合わせやエッチャントの種類、接触面積の比などの条件によって変わります(出典:A. Ravi Sankar, S. Das「Experimental analysis of galvanic corrosion of a thin metal film in a multilayer stack for MEMS application」Materials Science in Semiconductor Processing)。

実務上重要なのは、Al単膜のエッチングレート評価だけでは、実デバイスでのダメージを見積もりきれない場合があることです。電極や配線に異種金属を組み合わせる設計では、単膜の試験片で問題がなくても、実構造では腐食が加速する可能性を考慮する必要があります。

ウェットのまま乾燥方法を工夫する選択肢とその制約

ウェットエッチングを続けながら、乾燥工程を工夫して固着を避ける方法もあります。その代表が超臨界CO2(sCO2)乾燥です。CO2は温度31.1℃・圧力7.38 MPa以上の超臨界状態で気体と液体の境界を持たなくなるため、乾燥時に構造体を引き寄せる毛細管力をゼロにできます。ただし量産ラインに導入するには、高耐圧チャンバーなどの特殊で高価な設備が必要です。また、アルコールから液体CO2への溶媒置換に長い時間がかかるため、スループットやランニングコストの面で課題があるとされています(出典:PatSnap「Pattern Collapse Mitigation: Supercritical CO2 Drying Techniques」)。

さらに、Al配線を含む構造では、乾燥方法を工夫してもエッチング中にHF水溶液がAlに触れること自体は変わりません。方式を選ぶ際は、乾燥の問題と腐食の問題を分けて考えることが大切です。

ドライ(無水HF蒸気):Al表面に保護皮膜が形成される

無水HF蒸気(Vapor HF)を用いた気相エッチングでは、Al表面にフッ化アルミニウム(AlF3)の極めて薄い不動態皮膜(反応を止める保護層)が形成されます。そのため、Alは基本的にエッチングされないとされています。また、気相での反応のため、乾燥時に構造体が基板に張り付くスティクションも発生しにくくなります(出典:Idonus「Etch stop materials for release by vapor HF etching」)。

Al配線がある場合の使い分けの目安

ウェット(HF水溶液) ドライ(無水HF蒸気)
Alへの影響 等方的にエッチングされる(5:1希フッ酸で約11 nm/min) AlF3皮膜により基本的にエッチングされない
異種金属との接触 ガルバニック腐食で溶解が加速するおそれ 液体を介さないが、生成水の凝縮には注意が必要
乾燥工程 リンス後の乾燥でスティクションのリスク(超臨界乾燥は設備・時間の負担が大きい) 乾燥工程を伴わない
主な管理ポイント 薬液への暴露時間、金属の組み合わせ 温度・圧力による水分凝縮の制御

Al配線が露出している構造、特に異種金属と接する構造では、ドライ(無水HF蒸気)が有力な選択肢になります。ただし、ドライであれば無条件に安全というわけではありません。以下では、ドライプロセスを前提に注意すべき点を整理します。

注意点1:犠牲層エッチングの反応で生じる水分がAlを腐食させる

HF蒸気とSiO2の反応は「SiO2 + 4HF → SiF4(気体)+ 2H2O」で表され、副生成物として水が発生します(出典:Google Patents「US20090308843A1」)。チャンバー内の温度や圧力が不適切な場合、この水がウェーハ表面に凝縮して局所的なHF水溶液を形成します。その結果、ドライプロセスであってもAlのガルバニック腐食を誘発することがあります(出典:Academia.edu「Dry release for surface micromachining with HF vapor-phase etching」)。

これを防ぐため、メタノールやエタノールなどのアルコール蒸気を添加し、水分の凝縮を抑えながら反応を進める気相制御が用いられています(出典:ResearchGate「Highly selective isotropic gas-phase etching of SiO2 using HF and methanol at temperatures -30 °C and lower」)。

水分の凝縮はスティクションの要因としても知られていますが、Al配線を含む構造では「腐食」という別の不良として現れる点に注意が必要です。見た目が乾いた状態でリリースできていても、Al表面の状態は別途確認しておくことが望まれます。

注意点2:犠牲層(SiO2)の成膜方法を確認する

同じSiO2でも、成膜方法によってHF蒸気に対する挙動は大きく異なります。フィンランドVTT技術研究センターの調査では、熱酸化膜やLPCVD(減圧CVD)による酸化膜は安定してエッチングされ、Al表面に残留物を残さないと報告されています。一方、PECVD(プラズマCVD)による酸化膜(TEOS酸化膜など)は、膜中の水素含有量が多く密度が低いため、エッチング後にAl表面に腐食残留物を形成しやすいとされています(出典:VTT「Studies on aluminium corrosion during and after HF vapour treatment」)。

エッチング条件を調整しても残留物が解消しない場合は、装置条件ではなく犠牲層の膜質側に原因がある可能性があります。プロセスの立ち上げや条件検討では、エッチング条件とあわせて犠牲層の成膜手法も前提条件として共有しておくと、原因の切り分けが進めやすくなります。

注意点3:保護膜はシリコン窒化膜とAl2O3の特性を踏まえて選ぶ

CMOS回路やAlを保護するためにエッチストップ層(保護膜)を設ける場合は、HF蒸気への耐性を確認しておく必要があります。

一般的な保護膜であるシリコン窒化膜(SiN)は、HF蒸気とも徐々に反応し、六フッ化ケイ酸アンモニウム((NH4)2SiF6)という固体の副生成物を形成します(出典:Google Patents「EP1700822B1」)。一方、ALD(原子層堆積)法で形成した酸化アルミニウム(Al2O3)の極薄膜は、HF蒸気に対して不活性であり、CMOS回路を保護するパッシベーション層として機能すると報告されています(出典:ResearchGate「Etch stop materials for release by vapor HF etching」)。

シリコン窒化膜を保護膜として使う場合は、「エッチングされにくいか」だけでなく、副生成物がデバイス上に残らないかも含めて評価することが望まれます。

注意点4:犠牲層エッチングの品質を信頼性試験から逆算する

車載用デバイスの信頼性評価では、温度サイクルや高温高湿といった環境試験が行われます。AEC-Q100に基づく信頼性レポートでは、次のような条件が用いられています(出典:ルネサス エレクトロニクス「R7F7010233AFD-C Reliability Report for AEC-Q100」)。

条件の例 犠牲層エッチング起因で想定されるリスク
温度サイクル(TC) -55℃〜150℃、1000サイクル Alの微小な腐食が熱応力によるクラックの起点となり、断線につながり得る
高温高湿試験 85℃/85%RH(THB)、110℃/85%RH(UHST) 残留したフッ素化合物が吸湿し、マイグレーションやリーク電流を誘発し得る
衝撃・振動試験 キャビティパッケージ向けの機械的試験 可動部に応力が残留している場合、構造体が破断し得る

表の「想定されるリスク」は、既知の故障メカニズムから考えられる可能性を整理したものです。個別デバイスでの因果関係は、実構造での評価が必要です。

リリース直後の外観検査で問題が見えなくても、微小な腐食や残留物が信頼性試験で顕在化する可能性があります。車載向けを想定する場合は、犠牲層エッチングの条件評価の段階から信頼性試験の観点を組み込んでおくと、後工程での手戻りを減らしやすくなります。

症状から見る確認ポイント

ここまでの注意点を、現場で起きやすい症状ごとに整理します。原因を一つに断定するためのものではなく、最初に確認する箇所の目安として活用してください。

最初に疑うポイント 関連する注意点
ドライプロセスなのにAlパッドや配線に腐食が見られる チャンバー内の温度・圧力条件で、反応により生じた水分が凝縮していないか 注意点1
異種金属と接する箇所だけ腐食が激しい ガルバニック腐食。液体または凝縮した水分がAlと他の金属の双方に触れていないか ウェット/ドライの違い、注意点1
エッチング後、Al表面に残留物が残る 犠牲層がPECVD酸化膜(TEOSなど)ではないか 注意点2
保護膜の上に固体の副生成物が見られる 保護膜がシリコン窒化膜で、HF蒸気と反応していないか 注意点3
リリース直後は良好でも、信頼性試験で不良が出る 微小な腐食や、フッ素化合物の残留がないか 注意点4

よくある質問

A. 基本的には、Al表面にAlF3の不動態皮膜が形成されるため、Alはエッチングされにくいとされています。ただし、反応で生じる水分が温度・圧力条件によって凝縮すると、ドライプロセスでもガルバニック腐食が起きることがあります。方式の選択に加えて、条件の管理が欠かせません。

A. 使用できないわけではありません。ただし、熱酸化膜やLPCVD酸化膜に比べて、Al表面に腐食残留物が形成されやすいことが報告されています。PECVD酸化膜を使う場合は、残留物の有無を評価項目に含めることが望まれます。

A. シリコン窒化膜は一般的な保護膜ですが、HF蒸気と徐々に反応し、固体の副生成物をつくります。ALD法によるAl2O3はHF蒸気に対して不活性と報告されています。どちらを選ぶかは、エッチング時間や、副生成物がデバイスに与える影響を踏まえて判断することをおすすめします。

A. 超臨界CO2乾燥は、乾燥時のスティクション対策としては有効です。しかし、エッチング中にHF水溶液がAlに触れる点は変わらないため、Alの腐食対策にはなりません。また、設備コストや処理時間の面で量産への導入に課題があるとされています。

Al配線を含むMEMSの犠牲層エッチングに対応する「Vetelgeuse」

住友精密工業の犠牲層エッチング装置「Vetelgeuse(ベテルギウス)」は、無水HF蒸気を用いた完全ドライプロセスでSiO2犠牲層を等方的に除去します。Al構造体を含むデバイスでも、ガルバニック腐食などのダメージを生じさせずに酸化膜を選択的に除去することを目指した装置です。液体を介さないため、スティクションの防止にもつながります。マイクロメートルからミリメートルサイズまでの大きなアンダーカット(キャビティ)の形成にも、単一の気相プロセスで対応できます。

Vetelgeuseは量産ラインでの運用を前提としています。真空搬送ロボットを備え、最大3つのプロセスチャンバーを接続できる「VPXプラットフォーム」を採用しました。ウェーハを大気にさらさずに連続処理することで外気からの水分の吸着を防ぎ、プロセスの安定性を高めています。液体の廃液が出ない点も特長です。注意点1で取り上げた「水分の管理」を、プロセス条件だけでなく搬送環境の面からも支える設計です。

まとめ

  • Al配線が露出したMEMSの犠牲層エッチングでは、Alにダメージを与えずに構造体を確実に解放することが求められる

  • HF水溶液によるウェットエッチングはAlを溶かし、異種金属と接する構造ではガルバニック腐食で溶解が加速するおそれがある。超臨界CO2乾燥は乾燥の問題を解決するが、腐食対策にはならない

  • 無水HF蒸気によるドライプロセスはAl配線との相性がよいが、反応で生じる水分の凝縮には注意が必要

  • 犠牲層の成膜方法(熱酸化・LPCVDかPECVDか)や保護膜の種類(シリコン窒化膜かAl2O3か)によって、腐食や残留物のリスクは変わる

  • 車載用途では、信頼性試験から逆算して犠牲層エッチングの条件を評価することが有効

免責事項

本記事に記載の市場データおよび統計情報は、引用元資料の発行時点における情報です。最新情報は各調査機関の公式レポートをご確認ください。